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健康コラム
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夜間酸分泌回帰 (Nocturnal gastric Acid Breakthrough: NAB)

 NABとは、胃食道逆流症の治療に汎用される強力な胃酸分泌抑制剤であるプロトンポンプ阻害剤(PPI)の投与中にもかかわらず、夜間の胃内pH(水素イオン指数、酸・アルカリの度合いをその目盛りの数字で表すもので、 pH7を中性とし、それ未満を酸性、それより大きければアルカリ性としています)が4.0以下になる時間が1時間以上連続して認められる現象です(Am J Gastroenterol 93; 763-7:1998)。
 NABの機序は以下のように考えられています。①PPIの血中濃度は、内服2-3時間後にピークとなり、活性化状態のプロトンポンプを阻害し、10時間後にはほぼ0になる。②PPIは、食事により活性化されたプロトンポンプに結合し不可逆的に阻害する。③1回の食事で全てのプロトンポンプが活性化されるわけではなく、一部のプロトンポンプはPPIによる阻害を免れる。④プロトンポンプは1日に20%新生してくる。⑤深夜の内因性ヒスタミン刺激がこの③④のプロトンポンプを刺激し胃酸分泌を引き起こす。夜間絶食状態の胃酸基礎分泌をコントロールする機構は不明ですが、神経末端からPACAP(Pituitary Adenylate Cyclase Activating Polypeptide)が分泌され、それがECL細胞(enterochromaffin-like cell)からのヒスタミン分泌を促進し、更にそれがH2受容体を刺激するといわれています。
 NABに対する対抗策としては、就寝前にH2受容体拮抗薬の追加投与が有効であるとされています。しかし、H2受容体拮抗薬には連続投与によりその酸分泌抑制効果が減弱するという耐性の問題があります。またプロトンポンプ阻害剤とH2受容体拮抗薬の同時投与が保険診療上認められるかどうかも、審査機関によりその見解が異なります。