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健康コラム
専門医が語る病気の知識
びらん性GERDと非びらん性GERD(Erosive GERD and Non-Erosive GERD )

定義

 胃食道逆流症(Gastroesophageal Reflux Disease: GERD)は、胃食道逆流により引き起こされる食道粘膜のただれと煩わしい症状(胸やけ、つかえ感、呑酸、胸痛、など)のいずれかまたは両者を引き起こす病気です。食道粘膜にただれがあるびらん性GERD(erosive GERD、reflux esophagitis、逆流性食道炎)と食道粘膜のただれがないが症状がある非びらん性GERD(non-erosive GERD、NERD)に分類されます。厳密にはびらん性GERDのことを逆流性食道炎(reflux esophagitis)と言いますが、胃食道逆流症のことを世間一般では逆流性食道炎と呼んでいるようです。非びらん性GERDはNERDNon-Erosive Reflux Disease)の略号で呼ばれることが多いです。少し複雑で分かりにくいかも知れません。頻度ですが、胸やけを訴える患者さんの上部消化管内視鏡検査でびらん性GERDは30%、残りの70%は非びらん性GERDです。以前、非びらん性GERDはびらん性GERDの軽症型であるとの意見もありましたが、最近では、両者の病態は異なると考えられております。それでは、びらん性GERD逆流性食道炎)と非びらん性GERDNERD)の違いについて説明しましょう。

びらん性GERD(逆流性食道炎

 中高年男性で、脂っこいものをよく食べ、喫煙、飲酒を好む過食で肥満気味の人に多く、食道裂孔ヘルニア(胃と食道のつなぎ目が上にせり上がる病気)の合併が多いと言われています。標準量のプロトンポンプ阻害剤(PPI)80%の方に症状の改善が見られます。PPIは、胃壁細胞膜上のプロトンポンプ(胃酸を分泌する物質)に結合し、そのプロトンポンプを働かせる酵素の作用を妨げて、強力に胃酸分泌を抑制する薬剤です。

非びらん性GERD(NERD

 比較的若い、やせ型の女性で、喫煙習慣がない人に多く、食道裂孔ヘルニアの合併が少なく、几帳面で真面目なストレスを感じやすい人に多いとされます。びらん性GERDに比べてPPIの治療効果が低く、標準量のPPIで症状の改善がみられるのは50%に過ぎません。非びらん性GERDの症状の50〜70%が酸逆流によるもので、残りの30%の原因として食道知覚過敏健康コラム【食道知覚過敏】をご覧下さい。Click)、食道運動障害好酸球食道炎(食物アレルギ-により食道粘膜が慢性的に炎症を起こす病気、健康コラム【好酸球食道炎】をご覧下さい。Click)、機能性胸やけ(胸やけを起こす原因不明の病気)、精神心理的要因などがあり、これらは胃食道逆流とは無関係です。非びらん性GERDの方はびらん性GERDの方よりもより強い胸やけ症状を訴える傾向があります。これは非びらん性GERDの方は胃酸に対して食道が感じやすくなっているため(これを食道知覚過敏と言います、健康コラム【食道知覚過敏】をご覧下さい。Click)、少量の胃酸逆流でも強い胸やけを感じてしまうのではないかと言われています。食道知覚過敏の原因にはストレスによる自律神経の乱れが大きく影響しています。

検査

 PPI投与により症状が改善しない時には、食道インピーダンス・pHモニタリング(胃酸以外の液体や空気の逆流を捉え、胃酸の逆流の程度を評価)検査や食道内圧検査(食道の運動機能を評価)を行い、原因を精査します。

治療

 胃食道逆流症の初期治療の第一選択薬はPPIです。PPIの倍量・分割投与により酸分泌をさらに強力に抑制することで、非びらん性GERDの70%はコントロール可能であるとされています。またカリウムイオン競合型アシッドブロッカー(Potassium-Competitive Acid Blocker:P-CAB)という新しい薬剤が2015年より使用できるようになりました。これはプロトンポンプが酸を分泌する時に取り込むカリウムイオンに働きかけて、カリウムイオンとプロトンポンプを阻害する薬剤です。PPIよりも速やかで長く強力な酸抑制効果を有し、食事の影響を受けないのが特徴です。このP-CAB投与により、胃食道逆流症の治療でより高い症状改善効果が期待されます。さらに、消化管運動機能改善薬漢方製剤の追加投与も有効な場合があります。その他に精神科的アプローチ外科的な対応が必要になることもあります。